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● 第八回 大西民子賞(2007年)・福田淑子
- 福田淑子 ・昭和25年誕生。東京都在住。高校教師。平成14年「波濤」に入会。
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- 作品「孤独なる球体」詠・30首
- ● 梱包の箱に入りたるここちして部屋見回しぬ休日の朝
- ● ドア開けて出づれば既に路にをり結界もはや失ひし家
- ● 青空は素知らぬ顔に見下ろせり 密閉容器に見まがふ屋根を
- ● 灰色の雲映すかに不機嫌な屋根の続ける街に住みをり
- ● 丈高き塀の奥なる屋敷林 子の遊ぶ声久しく聞かず
- ● 道を行くわれらに木々が呼び覚ます舗装の下の土の記憶を
- ● 街の上の風はいつときためらひて森なき道を走り抜けたり
- ● 幾万の花創りしに意図ありや 薊 竜胆 萩曼珠沙華
- ● その家の主は知らねど折々に咲く花の名は知り尽くしたり
- ● 冷ややかな壁並びゐる路を行く「城」に入れぬカフカのごとく
- ● 寝静まる夜更けの帰路に何処よりはつかな人の気の流れくる
- ● なきごゑに隣家の赤子も泣き出せり今宵の壁は風を通すか
- ●花魁の簪のごと広がれる雄しべをゆらす花曼珠沙華
- ● 薄き殻肌に纏ひて雑踏を人行き交へば乾きたる音
- ● 遺伝子を遺さぬ性を抱え込みオブジェとなりて光る身体
- ● 雑草も土管の基地も見あたらず悪童消えし高層の街
- ● 気取りたる服着て遊ぶ子供らの眼にも宿れりかすかな野生
- ● 地下街のタイルの下に灼熱のマグマはたぎる火花散らして
- ● 巨大都市風に靡かぬビル群を体ゆさぶり動かしてみる
- ● 悲しみと怒りをつめてビル立ちぬバベルの塔より高く鋭く
- ● 今朝方の青き朝顔ふにやふにやと帰還兵なるわれを迎へる
- ● 出国の手続き済めばこの先は出国者といふ春の旅人
- ● ベルギーのうつろなる目の物乞ひとやはらかき緑溶け込みて春
- ● 黒人の服の白さ増す暗がりをパリの地下鉄(メトロ)は失踪しをり
- ● 地下鉄(メトロ)にてリズムをとりゐる黒人の幼の靴は口開きをり
- ● パリの街も疲れし人のうつろなるまなざし多し通勤電車に
- ● 地下鉄を中心街より乗りくれば貧しき人のエリアに入りぬ
- ● 演奏の物乞ひは失せ地下鉄(メトロ)にも携帯画面を見入る人々
- ● 他人(ひと)に堕つる悲しき事も映像に納まればみな仮想現実
- ● 電光と電影身体(からだ)を透過するわれらはすでに神の影武者
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