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● 第二十三回 大西民子・奨励賞(2022年)・清崎明子
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- ⚫️清崎明子・昭和26年誕生。神奈川県横須賀市在住。同人誌「創作」を経て平成29年「波濤短歌会」へ入会。
- 作品「波の詞(ことば)」・詠 20首
- ● 水仙の群れ咲く彼方灯台が白銀色の光を放つ
- ● 瀬戸内の青を見下ろし惜しみなく花ふりこぼす桜一樹は
- ● 透明な身を跳ね上ぐる白魚を輝かしめて淡き夕映
- ● 島民の幾春秋を支へ来し列車最後の朝を発ちゆく
- ● 海沿ひを限りなく続くオリーブの畑(はた)に五月の日は降り注ぐ
- ● 牡蠣筏浮かぶ水面を染め上げて黄金色なす夜明けの光
- ● 八月の朝(あした)眩き海原に杳き一隻光路を進む
- ● 東雲色の空仰ぎつつ海面も淡黄色に明けてゆく島
- ● 異次元へ誘ふ海かも金箔を敷き詰めて長き春の夕凪
- ● 段状に甍連ぬる集落を覆ひ尽くさむ夕映えの色
- ● 被写体となりたる孤舟とことはに残照の果て指して進まむ
- ● 創(きず)跡を労はるごとく流木を包みて淡き海の夕光
- ● 蛸壺の数多干さるる白昼を黒き猫来て毛を繕へり
- ● 日没の余光に浸り暫(しまら)くを砂紋は波の詞(ことば)語りぬ
- ● 巻雲を刷く空の下刻々と陽は沈みゆく黒き樹々の間
- ● 蒼き月海に煌めく明日には捕はれむ魚の命照らして
- ● 四囲なべて静寂深き時の間を一期一会のセフィアの夜明け
- ● ブルーグレーに空霞ゐて海上を通ふ船なき梅雨寒の朝
- ● 再びは叶はぬ旅と向日葵の萎えし海辺の駅に佇む
- ● 故郷を持たぬ芙美子がふる里と慕ひし海と坂のある街
●第二十三回大西民子・奨励賞 大瀧壽子
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大瀧壽子・静岡市在住。「波濤短歌会」静岡支部所属。半世紀農業に従事、傍ら毎日新聞、幼児向け絵本などに寄稿。
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- 作品「台湾・九份(きゅうふん)哀歌」・詠20首
- ● 山肌を覆ふがに建つ墓石群残されし人の慟哭を思ふ
- ● 九份はかつて金鉱に沸きし街塵肺に果てし幾多かなしき
- ● 巻き上ぐるシナ海よりの疾(はや)き風果てし鉱夫らの墓をひた打つ
- ● シナ海を見下ろして建つ珪肺病棟(びょうとう)は保存されゐて百年しづもる
- ● 産業の遺物の果てか曝されて朽ちゆくトロッコに蔦絡みつく
- ● 捕虜千人その半数は鉱に果てき虐待も罪も封じられしまま
- ● まぼろしに鉱夫(ひと)ら臥しをる病室より吐く重き音スリッパ摺る音
- ● うすき躰ベッドに沈め臥す鉱夫(ひと)らを救へむかとさぐる医師もただ泣く
- ● 慰霊碑は収容所(つめしょ)跡にひかりて建つ何の意義ありや捕虜らにとりて
- ● 冬空を背(そびら)に黙し眠る捕虜無念を向くる的なきかなしみ
- ● 汚染され爛(ただ)れ滑(ぬめ)れる岩肌を「黄金の滝」とふ声呑みて見遣る
- ● 山肌に威容ほこるかにいまも建つ十三階遺跡(おほきゐせき)は人間寄せつけず
- ● 製錬所の毒液(どく)は地を舐め蝕める許されまじきこの地球(ほし)を傷つけ
- ● 廃煙道はさながら毒を孕みし滝人間(ひと)が人間を切り捨てたりしか
- ● 製錬所も廃煙道も立ち入りならず人間(ひと)が人間を切り捨てたりしか
- ● 鉱婦らへのおもひを胸に帰路につく空も翼も街もにびいろ
- ● 九份の丘のなだりを撫で上ぐる風は慰霊碑を包みて過(よ)ぎる
- ● 人間を呑みしかつての丘に風草生に混じれるねじり草の紅
- ● 野に眠る墓なき鉱夫ら安らへと花は房ゆらしはなびら零(こぼ)す
- ● 今はしづか負の遺産見えず九份は草生はそよぎ萌えゐて明る
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