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● 第十九回 大西民子賞(2018年)・桑田さちこ
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桑田さちこ・昭和48年誕生。香川県三豊市在住。平成10年「波濤短歌会」に入会。
- 作品「 原点 」詠・30首
- ● 鬼ごっこかごめかごめかくれんぼ今年の牡丹花一匁
- ● 家のめぐりの路地に川原に公園に何にでもなれる幼児のわれは
- ● 年齢・性別お構いなしのおままごと今日の私はひいおじいさん
- ● 草をかき分けテトラポットを飛び越えん幼児の世界は日の暮るるまで
- ● 母の手を握りて唄を歌いつつ橋を渡りぬ夕日背にして
- ● 育ちたる家も店舗も今はなし真白き壁の住居となりて
- ● すれ違いの多き家族と知りたるはいつからだろう野の花を摘む
- ● 真夜中に目覚めて隣に父母の居ず布団は頭から被るもの
- ● 父母の間の冷たき空気を感じいて八歳のころは饒舌なりき
- ● 正きはどちらかなどと聞かれぬよう本に夢中の耳なし芳一
- ● 教師の要求を次々熟(こな)しゆく異星人と見られしか当時のクラスメートに
- ● 平穏無事に一日一日を紡ぎゆかん未来を語る少女らは知らねど
- ● われのみが父母を繋ぎ留めているはじかれたるも親には言えず
- ● 休みたる友の宿題を届けにゆきその母の怒号聞こえ来て竦(すく)む
- ● 人知れず苦しき時間を過ごしいしかその友も扶養さるる者なり
- ● 父の言う人情母の言う道理自分のために肯定している
- ● 父母の漕ぐ船に子供は揺られいて大人になるまで離るる術なし
- ● 行く先の決まらぬままに乗る船の舵取りをせんいつか自ら
- ● 小学校の図書館に安心基地を作りいつしか多くの本を読みたり
- ● 今は見ぬ真偽の分からぬ写真集 南京大虐殺心に残る
- ● 泣きわめき手のつけられぬ幼児よあの日あの夜を想い声かく
- ● 言いたきが言葉にできず飲み込みし日もあり見て見ぬふりなど出来ず
- ● 本当か嘘かではなく胸の内を知りたし側に佇むきみの
- ● 明日は旅行の夫の荷物を準備せりいつものTシャツにいつものジャージ
- ● 夫のこころにわれ棲みいるや眠る前ひとことふたこと言葉を交わす
- ● 眠り始めの夫が関節を鳴らしたり熟睡の子も関節鳴らす
- ● 稜線より朝日射し来る 病院に出勤せねばラジオ聴きつつ
- ● 「おはようございます」ひとりひとりに声かけぬ返り来る言葉に体調を見て
- ● 身の自由を奪われてゆく老婦人の病衣整えん背中さすりて
- ● 一日一日をこころを添わせて介助したし患者の仕草に呼応するように
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