● 第一回波濤賞受賞者　小川純子＜成田＞

　作品「水とひとしく」詠・30首

• ● 朝日射す栃の冬芽を仰ぎゐて芯に力のほつほつと湧く
• ● 梅の花しみみに匂ふ絵馬堂に合格祈願の札が連なる
• ● ひとり来て絵馬堂の前に立ち止まる確かなるものを今は望まず
• ● 陽を返し風に研がるる白蓮の花ふるふたび匂ひをおこす
• ● 咲きさかる花を仰ぎて今もなほ捨て得ぬものかわがメモワール
• ● ひとひらづつ流るる花のやさしさに過去につながる思ひは深し
• ● 噴水のしぶきを浴ぶる花びらのたまゆらに透く白を愛しむ
• ● 枝枝に愛をあつむる花みづきの虜なるべし紋白蝶は
• ● 友を恋ふ鳩にありけむ深更の闇に吐きつぐ言の葉を聞く
• ● 三抱へはあらむゆりの木いただきに咲く花のみな上向きてゐる
• ● おほらかに花は咲かせつつ泰山木終へし葉をひそかに落とす
• ● 小走りに流るる川の透く水に吸はれてゆかむいくばくの夢
• ● 水草を清めて流すこころ根の川は春陽をつややかに吸ふ
• ● 靄分けて朝のひかりの届きたり春をいただく川面もわれも
• ● きみどりの藻草の波になびけるを見入るところは流さるるまじ
• ● 堤防の靄あがりたり川の面が陽に磨かれてゆくまでを見る
• ● 根古名(ねこな)川の水すれすれにゆく鷺は純白のその影と連れ立つ
• ● 駆り立てる何かを持つらし白鷺の翼をつよく打ち振る肢体
• ● 鳥の孤独われの孤独の尽くるなし水無月の夜森のみみづく
• ● わが庭にも風に道あり白南風が女松の梢を鳴らしてかよふ
• ● 旅立ちし兄をいかにか迎へたる父母おもひ根の国おもふ
• ● 水底に似てややくらき夕の空中夭の友のおもかげさがす
• ● 流れ寄る霧のうす絹つつまれて歩めば見馴るる川も謎めく
• ● 後れたる三十年の生細やに告げやらむかもけふの夕星
• ● 散りばめるきららの光踏み踏みてひとり歩めり木漏れ日の道
• ● 街中の全身うつるウインドー抒情にとほき身は立ちどまる
• ● フィナーレの紅葉のこらずうるほいて山法師庭の芯となりたり
• ● 目に見えて太陽は落ちうそ寒に時は流れて星となるべし
• ● 神木のゆとりに清む樟の木を騒がしくする現世の風
• ● 手に受くる水とひとしくするするとことしも逃げゆく三百余日
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