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● うつすらと雪を被(かづ)ける羅漢像この地に生きる民の顔なり 桑山靖子
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ふるさとは雪の多い土地か。素朴な羅漢信仰が息づいている。地方によって羅漢の顔は微妙に違う
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のか。詩人の感性だ
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● 赤ちゃんは神様言葉を喋るゆゑひたすら笑顔で相槌をうつ
永井昭男
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「喃語」(乳児の、言葉を覚える前の声)を「神様言葉」とは言い得て妙だ。結句に作者の敬虔な人柄
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が滲み出ている
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● 山のなだり降り来る霧の白き龍乗せてくれぬか未知の国まで 栗山文子
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白い霧が降るのが龍に見えたと詠いリアリティがある。龍は干支で唯一想像上の動物だ。未知の国
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に詩情が溢れる
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● 十代の夢は今でも眩しくて紅茶飲みつつ友への手紙
塚越孝広
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十代の頃に夢見た眩しい夢とはどんな夢であったのか想像させる詩情がある。下の句はそれを
じっくり
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と味わう風情だ
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● 唐突に口笛聞こゆる夕間暮れ幸せの音色に浸る
小川結花
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おのずから唇から溢れる口笛はその人の幸せな時間帯であろう。そう感じる感性が素晴らしい。
結句に
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うっとりとなる
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● 母の愛うとましくなり口きかず出かけし朝も今はなつかし 桑田さちこ
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青春時代に誰もが経験したことを題材にして共感を呼ぶ。作者の成長が垣間見られ、母親にも
見せて
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あげたい歌だ
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● 冬空に伸ぶるクレーン旋回す飯縄山はゲレンデに雪
竹内 正
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観光地名としては「飯綱」と言われ北信五岳の一つ。視線を導くクレーンの動きが秀逸。雪を発見
した
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感動が伝わる
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● 編集を終えて原稿を渡す日は句読点ねとやよひ先生
寒川のり子
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結句に辛うじて作者の影が見える。作品としては絶妙のタイミングだろう。「句読点」は
やよひ先生
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の苦労の実感だ
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● 選者・磯村幸子
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● 絵日記のどこのページを開けたやら幼に戻り母恋ふ姉は
東 和子
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病む姉を思う作者の心根の優しさが、一直線に伝わってくる上の句の物言いに
打たれる
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● 自分では絶対選ばぬ靴下の口紅の柄よメリークリスマス
柿沼寿子
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有り難うと素直には言えない柿沼さんのへそ曲がり度(という言葉があったかどうか)が、とにかく
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面白い
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● 逝きてもなほその名派閥に残りゐる多勢で渡る赤信号めく 本澤満子
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「安部派9人裏金」等と新聞の見出しにある日々の作者の義憤。かの、赤信号のギャグも上手に
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引き合いに出して
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● 助手席の窓より伸ばしたをやかな手はためらはず煙草捨てたり
鹿野好子
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社会のルールに反する行為の煙草の吸い殻の捨て方。「たをやかな手」の把握が作者の視線の
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鋭さを思わせる
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● 友よりのお土産セドナのパワーストーン病得しわれに幸い呼ぶとう
中村笄子
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セドナの石にも種々の違いや意味があるそうだ。友の言葉を信じる下の句の物言いが優しい
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● 羽傷めひととせ残りし白鳥に飛来の一羽ひねもす寄り添ふ 柴田道子
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鳥たちの習性は知らないが、人間の振る舞いに当てはめてその有様を見ているのだろうか。情の
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ある下の句
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● 「一年が経つは速し」といふ歳になれば急ぎてやることはなし
小林賢二
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光陰矢の如しと感じる歳は、この世にやり残した事にあたふたとする歳だが。下の句、なんと
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個性的な考えの持ち主
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● 娘一家の来訪の知らせ届きたり寒さ押しのけ準備に励む
小林慶子
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娘たちの会えるという喜びの深さを思わせて「寒さ押しのけ」がよく効いている。幸せが
一杯
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の気配だ
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● 選者・北谷尚也
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● 何もかも断ってしまいたい春弥生鳥の眼となりとびこむ空へ
秋元恵美子
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全て投出してしまいたいといった思いと季節感が繋がる。鳥瞰したいという願いと理解した。結句は
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動くかもしれない
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● けやきの木樹皮はがれたる傷口に一筋の蔦よりそひており
津嶋けいこ
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独自の感性が伝わる作品。特徴ある欅の樹皮は年月とともに様子が変わる。生き生きとはを茂らす
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蔦との対比
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● 雨音乗せず降りゐると思ひしが外に出づればしんしんと雪
野沢このみ
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雨音はしないが天候の変化を鋭く察した作者。寒い地域の暮らし、生活感覚が伝わってくる。動作に
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趣を感じる
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● 十八年続けし託児ボランティア 若き日の夢少し叶いぬ
山崎弘子
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子育て広場に携わり、多くの親子を支援してきた。やむなき閉鎖の無念さよりも自分の夢の実現
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と捉えた姿に感動する
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● 屋久島に縄文杉を仰ぎ見て樹に定命の無きことを知る
米山善雄
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「定命」は仏教で前世から決まっている寿命をいう。巨木をふり仰ぎ、はかり知れない命の長さに
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感銘を受けた
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● 夕焼けに頬染めて歌う女の子らとすれちがうときわれ口ずさむ
小野和子
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歩きながら大きな声で歌う子どもは買ってよく見かけた。すれ違いながら思わず口ずさむ、気持ち
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が通じ合う場面だ
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● □(しかく)より○(まる)が並んだ方がいい二○二四年の丸餅
橋本南美
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四角い餅より丸い餅が並んだ方がなんだか良い。新しい年を迎える淑気とでもいう雰囲気を丸餅は
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出すのかもしれない
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● 雪虫のふうわり群れて浮遊せり発掘現場の人らの上を
石田美津枝
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季節はうつり、冬が訪れた。寒々しい雰囲気と発掘現場の空の広さが描かれた作品。風に漂う雪虫が
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静けさを象徴する
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● 選者・岡本光代
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● 一周忌父はやつぱり晴れ男小春日和のお墓を囲む
仁平由美子
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お父さんは天気運の良い人であったよう。一周忌のこの日もやはり小春日和。お墓を囲みしみじみ
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と思い出す
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● 霜月というのに咲ける白百合よわれも狂う日あるやも知れず
吉田ノリ子
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このところの異常な気象で、思いもよらない頃に白百合。忍び寄る不安な心情を白百合に託した
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共感できる嘆き
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● 難読の文字に連れられページ繰る漢字の森に寄り道愉し
吉本かずえ
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近ごろは、電子辞書なる便利なもののある世。だが紙の辞典はまさしく漢字の森。比喩が楽しい
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● 何ほどの孝行もできず父母を逝かせしわれか今も悔いをり
梶口美都子
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この一首には心の奥がうずかされる。深いふかい寂しさと悔やみの尽きない心の揺らぎ。そっと
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頷ける読後感
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● カタコトと一人の食器片付ける秋の夜長にさみしき音よ
畑佐恵美子
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秋はことのほか淋しさの増す季節。まして夜ともなるとその淋しさはいや増すもの。ふかい孤独が
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にじむ
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● 冬晴れに忙しく葱の土寄せす温き光も掻き寄せながら
鮎川三枝子
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たまさかの冬の晴れ間に精を出す作者像があざやか。温い土も、そして「冬の光も掻き寄せて」
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の表現も巧み
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● 味方になれぬと思ふも聞きませう小春日和の縁側なれば
保原みつ子
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下の句の「小春日和の縁側なれば」が一首を柔らかくしている。ありのままを詠みながら背景の
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深さを感じる
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● くたびれてきているけれど透析で頑張るという夫はヒーロー
野々山多恵
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透析となったご主人の力強い言葉が嬉しい。「メガネ外し空を仰げば風の青さ冬の青さが裸眼に
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とどく」にも注目した
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波濤短歌会
第二十二回波濤賞受賞...