● 第二十回波濤賞受賞者　　西郷賢谷＜愛知＞

  
　　作品「緊急入院」詠・30首

• ● 金曜日緊急入院は想定外　緊急車両に搬送される
• ● 腎臓がもう疲れたとストライキ自重してくれと注意信号
• ● 点滴はリズムを刻み落ちつづく雨垂れに似て膨らみ　ポトリ
• ● 雨が降れば山は綺麗になるという病室から見る五月のみどり
• ● 点滴は救世主なり「辛くても我慢してよ」と看護師は言う
• ● 腎臓の機能を百とするならば今は五くらいと医師は真顔で
• ● 右首にカテーテル入れ透析の準備OK　不安が募る
• ● 体内の毒素を排除しましょうと人工透析　時間が過ぎる
• ● なだらかな稜線描く弓張りの山系眺める病室の窓に
• ● 九問のメモ見つつ医師に妻は問うわれの症状と治療法など
• ● 慈悲地蔵のごとき眼差しで医師は言う経皮的腎生検したいと
• ● 薄雲の切れて緩やかな陽の射して今日は手術日　無事祈るだけ
• ● 病室を変わる理由は腎細胞摘出手術の出来る病棟
• ● 人生に大きな穴が開いたよう長期入院・治療を覚悟
• ● 七十歳の喜怒哀楽の浮き沈み今病院のベッドに試練
• ● 息子らにわが死後のこと話しておく三時間なれども大事なことと
• ● 日に三度の薄味病院給食に慣れていきます入院中に
• ● 少しだけ数値の下り「一旦は退院するか」と医師は優しく
• ● 土日には一時帰宅が許されてザリガニ捕りを孫と楽しむ
• ● 考えてみれば残酷　捕まえた命は全て無くなるだろう
• ● 寝たきりにならぬようにと院内をぷらり巡回脳も鍛える
• ● いそいそと帰り支度をしています退院という言葉噛みしめ
• ● 退院し一週間後の再診の結果は膠着　ひとまずは良し
• ● 耳鳴りか生活音か地の虫かまだ本物の身体ではない
• ● 旅行用のバッグに入院必需品を詰めつつ妻は「使いたくない」
• ● 番号で呼ぶのが合理的なのか　総合病院人・人・人・人
• ● 番号で呼ばれたけれど検査時は氏名生年月日問われる
• ● 血圧はちょっと高めで脈拍は早めと妻はモナリザの笑み
• ● 生きていることが奇跡と医師の言う死神様もお手上げのよう
• ● 自転車を今朝も漕げることに謝す医療スタッフや空の父母にも

第十九回波濤賞受賞者...

第二十一回波濤賞受...