●第六回大西民子賞奨励賞受賞者　丸地寿典
昭和四十二年誕生。愛知県豊橋市在住。会社員。作歌始めて一年。

• 作品「深夜特急便」詠・20首
• ● 今週もバッグ一つを道連れにトラック走らす南の方へ
• ● 砂浜で塩の効かないおむすびに潮の香りを足して食べてる
• ● トラックの狭い寝床に足を折り身体を縮めて今夜も眠る
• ● 電線の隙間に見える星たちは空にいるのに窮屈そうだ
• ● 晴れた日は乾いたタイヤの振動がわれの気持ちを弾ませくれる
• ● エンジンの細かい振動聞きながら朝のルートを頭に描く
• ● そんなにも苦労はさせていないはず　敗れた靴下履く妻を見る
• ● 野菜籠の曲がった胡瓜が目に入る育ちの悪さは誰に似ている
• ● 何時の間に飛び込んできたかこの虫も暫しのあいだ道連れとする
• ● ハンドルを何度も何度も切り返し狭い道路に巨体動かす
• ● 台風を引き連れながら疾走す日本列島今北上中
• ● 帰り道荷台の中は空っぽで代わりに寒さ詰め込んでゆく
• ● フロントの硝子に当たる雨粒が峠を越えるとき雪になる
• ● 指先に出来た逆剥け強引に剥いて忘れる親不孝者
• ● 外国の木材乗せたパレットを異国の臭いと共に運べり
• ● 妻よりも長い年月連れ添ったこの車に速度制限の足かせが付く
• ● 何気なく家に電話をしてみると「どなたですか」と妻に聞かれる
• ● 事故をした車を横目にやり過ごし自分にはないと信じて走る
• ● 強い風トラック目がけて吹き付ける空(から)の荷台が激しく揺れる
• ● どこまでも同じ色彩　右は海　青空　菜の花　アスファルトの道
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