●第十五回大西民子賞　中城俊昭
昭和五十八年誕生。埼玉県久喜市在住。二〇一二年「波濤短歌会」に入会。

• 作品「止揚の珠(たま)」詠・30首
• ● あえかなるいのちの音叉打ち叩きまた打ち叩く今朝の汽笛は
• ● 飛沫あげ湯の沸く鍋の奥底に人の愚かさの結晶は見ゆ
• ● 皆人の憎悪果てなき夜の檻に光る星辰の黄なるエレジー
• ● 日々黒き澱と積もれる矜持いま俄に溶かす春の光が
• ● またねとふ君の鈴の音の消ゆるときコンロの炎をそつと強くす
• ● ラムネ瓶伝ふ一滴指差して地球と泣くを誰が嘆かむ
• ● 編棒をひたに動かす手を濡らす時雨は過去を惜しむごとくに
• ● 靴跡を付け来し土手も雪に沈むゼウスはわれを赦さざりしか
• ● 眼裏にしかと描きし皓月もどこか欠けゐる烙印のごと
• ● 剣など断じて持たず唯一つ人の痛みを抱き生きたし
• ● 此れの世は欺瞞の海に満ちてをりそを割る杖よ賢者よいづくに
• ● 急ぐ足に纏はる猫の首まはり撫でやれば淡き虹が漂ふ
• ● 君と手を繋ぎ歩める荒野にも鳥は飛ぶ朝の藍のおほぞら
• ● 幾たびも海に叫びし日もはるか夢の峡谷に祖母はおはさず
• ● 大いなる肉叢(ししむら)齧る獅子は知らず宇宙の喉に己の居るを
• ● 琥珀の樹液垂るるを囲む諍ひに眼を耳を塞ぐ顔を背けて
• ● 鋼鉄のつるはしに岩を削れども地球の皮膚の奥は見えざり
• ● 夕凪のロッカールームにびりびりに裂かれし詩集のすすり泣きをり
• ● 呼ばれたる校舎の裏にて囲まれぬ人を装ふ異形の群れに
• ● 人が人をかくも謗るはなにゆゑかわが眼を見つつ答えよ悪魔
• ● 虐げらるる方が悪しとふ声に忌むべき脳を死が舐め尽くす
• ● 汚れゐる手に柚子の実の清しきを握り来たりぬ青春が刻
• ● 宵闇に投げ出す鉛の膝は冷えサタンの竜と化す音迫る
• ● 病める身を昏き水もて塗りたくり嘲り無数の呪術師の眼が
• ● 悲しみの背比べをして悲しみに浸れる君をけふは悲しむ
• ● ヒュドラーの胃をなす影よ喰はば喰へこの絶望の泥の軀を
• ● 人を世を厭ひ生まれて泣くばかり輪郭のみ人とかたどり
• ● されど止揚の智慧の珠持つ人にこそ光に満つる明日は開けむ
• ● 揶揄の矢の手傷ににじむかなしみもあらはに今朝のソナタ「テンペスト」
• ● 消ゆるなき苦を身に刻みいざ往かむ還るべき世に平和なる地に

第十四回民子賞受賞者...

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