●第十七回大西民子賞　 三条　純
昭和三十二年誕生。大阪府高槻市・在住。平成二十五年七月「波濤短歌会」に入会。

• 作品「林檎食む少女」詠・30首
• ● 青きあざ頬にのこれる子の映りニュースキャスターの音吐も暗し
• ● いつまでも消えぬ残像ふくらみてセピア色せる記憶が疼く
• ● 幼きは故なき力になぶられて赤きサンダル雨にぬれをり
• ● 少年はありとあらゆる感情を仮面の下にうづめて堪へぬ
• ● 蹴球に耽る子どもら九竜の公園かけて真夜にゴールす
• ● ひたすらに母をもとむる魂と迷へる子羊(ストレイシープ)となれる母かな
• ● 隣人も公吏も知らぬふりをする心貧しき国となりゆく
• ● からつぽの胃袋かかへて逝きし子に両手いつぱい夢を持たせよ
• ● 後の世はせめて母性につつまれて生まれ変はれよいつぱい食べよ
• ● 定命のかくも短く海山も知らず旅立ち巡礼となる
• ● しあはせの記憶なきまま逝きし子の彷徨ふ荒野に水そなふべし
• ● 棄てられし「よその子」ばかりの教室に蝋燭ともすトリイ・ヘイデン
• 　　　＜児童心理学者トリイ・ヘイデンの著書を読む＞
• ● 貧しさが烙印のごと身にしみて「シーラという子」は夢でもほそし
• ● この地球(ほし)の貧しさ救ふ学び舎に光のパイプオルガンが射す
• ● わが得たるいくらかのこと伝へむと教室の窓おほきく開く
• ● クリップでとめたるごとく教え子のことばが残る終電まぢか
• ● ゆりかごの歌をうたひて揺らさむや黄色の月のにじむ夜更けも
• ● 笹舟にのせし夢さへ忘れさり母は内職の針を急きゐる
• ● 青き痣のこれる腕も太股もただいとほしく膝をだきゐき
• ● となり家の子の泣気ゐればわが乳房痛むことなど知る人もなし
• ● うす暗き廊下のすみで林檎食む少女の影はふいのデジャヴ
• ● かじかみし思考を抱き見上ぐれば月の孤独をまざまざと見つ
• ● 冬枯れの野に白鳥(しらとり)の休むごとビニール袋は枝に留まれる
• ● なさぬ子を育てたる友のゆるぎなき父性といふをつらつら思ふ
• ● 眼裏の物乞ふ三人忘れえず　薬罐はこゑをあげはじめたり
• ● 食道の位置をたしかめ熱き茶はゆつくりと落つ底冷えの朝
• ● まぶしげに削げし顎 (あぎと)を傾けり馬を引きゐるフィジーの少年
• ● 手綱引く十四歳(じふし)のノアは旅人を朝の岬へ誘ひゆけり
• ● 消えぬ傷かかふる母と子の宿はサンタ・マリアのゆりかごの中
• ● ともしびはサンタ・マリアのゆりかごに眠る命の光となれり

第十六回民子賞受賞者...

第十八回民子賞受賞者...