●第十四回大西民子賞・奨励賞　西貝里美
昭和51年誕生。静岡県静岡市在住。平成二十三年十一月より波濤短歌会所属。

• 作品「虎を飼ふ」詠・22首
• ● 学舎に唄ふは雀ばかりなり目に見えぬ敵あらはれし村
• ● けもの道ときには人も迷い込む息切らしつつ進むほかなし
• ● 紫外線避けて岩間に身を隠す小さき蜥蜴干ばつの夏
• ● 陸に生まれ海に戻れぬ深海魚暗きガラスの中を泳ぎぬ
• ● 盛り過ぎ卵を産めぬ鶏が集められ行く雨の山道
• ● やせ馬の首にすがりて泣く農夫民の膏(あぶら)搾り尽くされ
• ● 原因を忘るるなかれ節電を強ひられる夏終りなき夏
• ● 土ぼこり神も仏もゐない街　舗装路割りてタンポポは咲く
• ● 「山月記」にあらねどわれも虎を飼ふ詩(うた)に囚はれ眠れぬ夜は
• ● 恐怖とは人の生みだす闇のことわれも佇むその暗き淵
• ● 万物の霊長などとおごりゐて争ひ絶えず猿が笑へる
• ● 絶海の孤島に嵐を耐へる鳥いまこの国の姿と思ふ
• ● 赤紙は奪ひ去りたりわが祖母の二人の兄と夫を一人
• ● 平壌の兄案じつつ事切れし祖母なり誰かだれか謝れ
• ● 敵軍の上陸せし日その島の牛馬も消えたり食料として
• ● 農耕馬が戦地に消えし物語おとぎ話の本と並びて
• ● 隣国の脅威を感じ今までの幸せ思ふ戦後生まれは
• ● 白き皿手をすり抜けて砕け散るきみが異国で妻娶る夜
• ● 寺の隅つけもの石のごとき墓　重罪人の母が眠れり
• ● 母が子を子が母殺すこの世こそ無間地獄か地蔵に祈る
• ● 三歳の幼児とあればそれだけで死亡欄から漏れる嗚咽は
• ● 過去からの復讐を受けくり返す歴史のページ人の営み

第十三回民子賞受賞者...

第十五回民子賞受賞者...